2016年5月30日月曜日

【考察】ブアの新曲「カラマーイ」から考える、タイにおけるヒットの構造

ちょっとタイミングが遅くなってしまいましたが、トップラインの女性歌手ブア・ガモンティップが1年ぶりの新曲を出しました。



タイトルは「カラマーイ(คารามาย)」。痒み止めという意味です。マイナーキーでアップテンポという、ヒット曲の要素をふんだんに含んだこの曲。

◆薬のカラマーイ


まだ大きなヒットが無いブアや彼女をマネージメントする父親にとっては、この曲で結果を出してやろうという意気込みが感じられる、ある意味勝負をかけた曲のように感じます。

思えば自分が彼女をフォローし始めた1年前(ブアを初めて見たのは3年前ですが)は、ブア目当てでコンサートを観に来るファンなんてほとんどいなかったのに、今はコンサート毎に応援に来る熱心なファンも増えてきて、後は彼女の名刺代わりになる曲があればと思っているのは、スタッフもファンも同じでしょう。

◆บัว กมลทิพย์ ท็อปไลน์(ブア・ガモンティップ・トップライン)/คารามาย(カラマーイ)



◆4月22日、バンコクのワット・バーンナムチョンで、スーパー・ヴァレンタインとモッデーン・ジラーポンのコンサートに飛び入り参加したブアが歌う「カラマーイ」


そんな勝負曲とも言える今回の新曲。果たしてヒットするでしょうか。

今が旬の歌手ブン・バトゥムラートもこの曲をシェアしたりと、世間の反応は上々なんですが、僕が思うに、この曲は良い線はいっているものの、彼女の代名詞となるほどのヒットになるかどうかは微妙なところだと思います。

というのも、タイでヒットするには、その曲を誰もが歌ったり踊ったり出来る事が重要な要素で、コンサートなどで沢山の人にうたわれる事によって徐々に広まっていくからです。

一言で言えば「リスナー参加型」。極端な話、オリジナル感や歌っている人の個性は2の次という傾向が強いです。この辺は日本人のように、オリジナル感重視で単純に「(メロディーや歌詞を)聴いて良いと思える曲」を尊重する、という捉え方とは若干違います。

もちろん良いメロディー、良い歌詞であることは大前提なのですが、それだけではタイのリスナーは喜びません。

コンサートで観客の反応を見ていると良く分かるのですが、ヒット曲が歌われると彼らはまるで自分のコンサートかのように熱唱していますし、踊っている人はステージなんか見ずに自己陶酔して踊っています。

とにかく、自分がその曲に入り込めるという事が重要です。なので、小難しいテクニックなどいりませんし、「どっかで聴いた事あるような感じだなぁ~」と思っても、それが良ければオールOK!(笑)。ちょっと何かの曲に似ているからと言って、すぐに「パクリだ!」と叫びまくるなんて事もしません。

大まかにパターンを分けると、以下の3パターンに分かれます(これは、あくまでも筆者の主観によるものです)。

1.自己陶酔パターン
2.歌唱参加型パターン
3.ダンス天国パターン

大体のヒット曲は一つのパターンだけでなく、幾つかのパターンの組み合わせから出来ています。

まず【1.自己陶酔パターン】は歌詞の内容が重要で、ルークトゥンモーラムでは恋愛に関するものがほとんどです。

しかも幸福な内容よりも、フラれただの捨てられただのといった内容がほとんど。それをリスナーが่自分に置き換えたり、自身で経験した過去を思い出して、その世界に浸るという。


【2.歌唱参加型パターン】は文字通り、一緒に歌えるというのが重要。素人が歌えるには、高度なテクニックが必要ない事、平易なメロディーである事が大きなポイントです。

そして、この2つのパターンが組み合わされればもう最強!(笑)

その典型例が、近年の特大ヒットとなった2曲、ゴン・フアイライの「サイ・ワー・シ・ボ・ティム・ガン」と、ブン・パトゥムラートの「アーイ・ミー・ヘットポン」でしょう。

オマケに2曲ともイケメンが歌っているもんで、女性比率の高いタイではとんでもない事になりましたwww


【ヒット曲例-1】サイ・ワー・シ・ボ・ティム・ガン/ゴン・フアイライ(2016年4月16日、バーンセーン・ビーチ)



【ヒット曲例-2】アイ・ミー・ヘットポン/ブン・パトゥムラート(2016年5月7日、ホワイクワン競技場)



さらに、2曲ともイサーン語で歌われている曲という事もあって、イサーン人の圧倒的な支持を得ている訳ですが、「サイ・ワー・・・」においては、そういった枠も越えてタイ人に親しまれる曲になりました。

また【3.ダンス天国パターン】は、こちらも説明不要だと思いますが、単純に踊れれば良いというパターンです。

もちろんメロディーが良いというのも重要になってくるのでが、歌詞はどちらかというと2の次という感じですね。

インリーの例の大ヒット曲はこのパターンに分類しても良いでしょうね。1のパターンも少し入っているかな。

最近の例ではジェス(แจ๊ส สปุ๊กนิค ปาปิยอง กุ๊กกุ๊ก)の「ウェン・フォー・ロー・フィアオ(แว้นฟ้อหล่อเฟี้ยว)」やトックトーの曲「ヂャック・ギム・ガップ・トックトー」もこのパターンに入るといっても良いでしょう。


【ヒット曲例-3】トックトー・バンド/ヂャック・ギム・ガップ・トックトー(2016年4月16日、バーンセーン・ビーチ)


あと、パターンに分けるほど多くありませんが「下ネタパターン」というのもありますね。

モッデーン・ヂラーポンの「サーオ・カーイ・ウィー」と「ノーン・トゥン・クワーイ」はその代表例。

「サーオ・カーイ・ウィー(櫛を売る女)」のウィーは「ヒー(女性器)」の隠喩で、いわゆる売春をテーマにした曲になっていますし、「ノーン・トゥン・クワーイ(水牛を目覚めさせた娘)」のクワーイは「クワイ(男性器)」の隠喩になっています。

※蛇足ですが、カンチャナブリーにある「クウェー川橋」を、日本のガイドブックなどでは「クワイ川橋」と表記しているのが散見されるのですが、その発音でタイ人に話すと危険なので注意しましょう(笑)。

その歌詞の内容でさらにアップテンポで踊れる曲なので、それが世間に受けたという事なんでしょうね。

◆モッデーン・ヂラーポン/サーオ・カーイ・ウィー~キン・フー~ノーン・トゥーン・クワーイ(2016年4月8日、イサーン・ラムプルーン)


古いところでは「カン・フー」もこのパターンになりますね(コンサートでは今でもバリバリ歌われていますがw)。

と、ざっとタイのヒットの傾向を考えてみたのですが、ブアの今回の曲はどのパターンに当てはまるでしょうか。

別にパターンに当てはまればヒットするという事でもありませんが、少なくともこれらのどれかの要素が入っていないと、タイでヒットする事は難しいでしょう。

日本人の僕の耳で聴く限りでは、ブアの新曲は良いメロディーだし、サビもキャッチーで印象に残りやすいし、つい口ずさんでしまう分かりやすさもあるのですが(ラップの部分はちょっと余分だと思いますけど)、それがタイの人に受けるかとなると、ちょっと難しい気がしますね。

残念ながら今のところ、この曲をブア以外の歌手が歌っているのは聴いた事はありません。

現在、イサーン勢優勢のタイのルークトゥン・モーラム界において、中部出身のブアが1発当てるのはなかなか至難の技だと思いますが、その可能性はあると思っていますし、だからこそ今まで応援してきた訳ですから、この曲でなくても良いので、いずれは大きな花火を打ち上げてほしい、とおじさんは影ながら応援しております(最近、あまりコンサート行けてないけどw)。

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